日本でオープンソースが流行らない理由

海外では非常に多くのオープンソースソフトウェアが積極的に開発されていますが、日本発のプロジェクトで世界中に広まったものは数えるほどしかありません。日本でオープンソースソフトウェアが流行らない理由を検証してみました。

1.時間の問題(overwork)

まず、日本人はあまりにも忙しすぎます。ほとんどの理由は、会社が忙しいというものですが、それに加え、残業や休日出勤が多すぎるというのもあげられます。海外では時間は非常に貴重なものとして扱われており、とりわけオーストラリアやドイツでは、5時になったら一斉に電気が落ちるのが普通ですが、日本では、始発で会社に行き終電で家に帰るのが常態化しています。また、日本では、休日は日曜日しかありません。週休2日制の会社や祭日が休みの会社もあるようですが、一部の限られた会社でしかありません。法的にも28日につき4日の休日を与えれば良いことになっています(法定休日)。海外では、大量のバケーションと、実際に消化できる有給休暇があります。日本は世界的に見ても労働時間が長い割には、生産性が悪く、時間を非効率的に扱っている国であると言えます。また、家に帰りたくないためにだらだらと残業をする社員がいたり、自分のコミニュケーション能力を高く見せるために意見交換会と称して飲み会を頻繁に催す社員がいたりして、そのために他の社員が帰ることができないという実態もあります。本当にもったいない話です。

このことは、不眠症や拒食症やうつ病や過労自殺や過労死など、さまざまな問題を引き起こしています。仮に健康でいられたとしても、家事・子育て・介護が両立できないなど、家庭崩壊の問題を生じさせます。そのような状況下でオープンソース活動をするのは、もってのほかです。これらをやろうと思えば、会社を辞めざるを得ません。実際、2020年には人口の1/3が65歳以上の高齢者、団塊の世代が75歳を超えて要介護状態となり、40歳程度の会社員は親の介護のために大半が辞めざるを得なくなるという分析が出ています。これを防ぐには、在宅ワークや短時間勤務の導入が急務です。しかし、在宅ワークはセキュリティ上の問題があるほか、業務遂行よりも「会社にいる」ことが美徳とされるために、なかなか普及しません。短時間勤務も、会社にいる時間が短いのは悪である上に、4時間労働のために往復4時間の通勤をするのではあまり意味がないという問題があり、なかなか普及しません。

その点では、自営業やフリーランスは多少は恵まれた環境にあるといえます。労働時間管理、健康管理は自分でできますし、そもそも自宅と仕事場が同一あるいは近いことが多いので、通勤時間が節約でき、家事や子育てや介護とも両立がしやすく、時間が残ればオープンソースに割り当てることが可能です。

2.お金の問題(underpayment)

日本には、貧困状態にある若者が多くいます。この中には、開発者の卵であったり、実際に開発者である人も多いのですが、給料が安いために、生活をするのに精一杯で、オープンソースどころではないといった状態です。オープンソースは意外とお金のかかる趣味です。マシン代と書籍代と通信費とサーバー代とVisual Studio代などがかかるのはもちろんですが、さらに時代に合わせて維持・更新していく費用がかかります。生活が苦しいのに、複数台のマシンや環境を整備したり(置き場の問題もある)、MSDNサブスクリプションなど購入するのはもってのほかです。

この問題を解決するには、会社の支払う相当時給を最低1500円にするなど、賃金の底上げをし、若者の貧困を解消していくことが重要です。また、サービス残業やサービス休日出勤は、時効をなくし、違反した会社には、3倍の割増金を支払うことと、死刑に匹敵する重い刑罰を科すようにしなければ、いつまでたっても労働基準法は守られないままです。そもそも賃金を支払わないのは脱税行為でもありますから。税務署もサービス残業時間まで1分単位できちんと調査し、会社から追徴課税をすべきでしょう。

3.会社の問題

会社にみつからないように開発するというのは、現実問題かなり難しい話です。経営者は、労働者が自分の会社以外の業に専念することを非常に嫌がります(接待とスポーツを除く)。そのため、可能な限り労働者を24時間365日拘束しようとします。また、たいていの会社は副業を禁止しています。法的に、「業」というのは、報酬の有無にかかわらず、繰り返し、反復して行うことをいうので、オープンソース活動をすることは無償であっても禁じているわけです。

もうひとつの問題は、職務著作の問題です。職務著作は、本来は、法人の発案に基づいて、法人の指示によって、勤務時間内に作られたものは、法人の著作物となるように考えられた法律です。しかし、現在ではそれが拡大解釈され、会社の従業員が作ったものは、たとえそれが、法人の発案に基づかず、法人の指示でもなく、自分の設備を用いて勤務時間外にプライベートで作ったものであったものでも、会社の著作物となるようです。もちろん、裁判で個別に争うことは可能です。しかし、会社は絶大な権力と優秀な弁護士を行使しますし、従業員は時間や訴訟費用や解雇の問題などがあって、裁判に踏み切れないのが実情です。過去に起こった裁判の判例では、やはり会社側が勝訴しています。今では、入社時に、従業員は会社によって生かされているのだから、すべての個人的な著作物を会社に無償譲渡するという条項にサインさせる、あるいは個人的な著作物の製作を禁止する条項にサインさせる会社も多くなってきました。

4.理解の問題

日本では、オープンソースに限らず、同人、絵画、執筆、鉄道、アニメ、ゲーム、コスプレなどのいわゆるオタクっぽい趣味・行為は、汚らわしいものとして扱われ、とても一般人に理解されるようなものではありません。一般人が理解するものは、酒・タバコ・女(男)・ギャンブル・スポーツ・芸能の6種類に限られています。そのため、オープンソース開発者は非常に肩身の狭い思いをして生きています。会社の上司にばれれば、人望や評価は大幅に落ちるでしょう。そのため、海外では実名でオープンソース活動をするのが普通で、それが社会的評価になりますが、日本では逆にハンドルネームでオープンソース活動をし、社会的信頼を失うのを防がなければなりません。

それ以前の問題として、一般人がオープンソースとは何かを知っている可能性は低く、宇宙語を話しているように思われるでしょう。例えば、一般人はLinuxやOpenOfficeやFireFoxの存在を知りませんし、GPLやBSDの存在を知りませんし、RedHatやApacheやMozillaの存在も知りません。彼らはそのようなものとは全く縁が無く、そもそもスマホさえあればコンピューターなしで生きていくのに全く問題はないのです。そのような役にも立たないことに時間を費やすことは馬鹿げているので、モチベーションは全く上がりません。

また、仮にオープンソースを知っていたとしても、企業の作ったプロプライエタリなソフトウェアに比べ、信頼性の低いものだと思われているため、採用されることはめったにありません。多くの日本人は、お金を払って買ったものは品質が高く、無料のものや100円のものは品質が低いと考えているのです。ただ、実際には中途半端なオープンソースプロジェクトが氾濫しているのも事実であり、オープンソースの信頼性を高めるためにも、使えるものはどれかを指し示すポインタが必要です。日本のオープンソースソフトウェアのリストでは、そのようなものをピックアップしました。

5.英語の問題

オープンソースの開発は、どの国で開発するにしても、基本的に英語で行われますし、ドキュメントも英語で整備されます。従って、日本人同士が会話するにあたっても、英語を使わなければならず、これが負担の原因になっています。もちろん、日本語と英語の両方を常に用意するという方法もありますが、両方をメンテナンスするのは倍の手間がかかります。それにすべての人が英語が得意なわけではありません。ほとんどの人は、辞書や翻訳ソフトを使って一生懸命変換しているのです。ましてや、電話によるリアルタイムの英会話は、もってのほかです。

現実的な対策として、まずは日本語のみで開発を行い、完成したら英語版に移植していくという手段がとられています。最近では、日本用のコミュニティーであるOSDNがありますし、Unicodeが標準化されて文字種別の処理は必要なくなってきていますし、翻訳サイトがありますので、昔に比べれば手間も減ってきていると言えます。しかし、それでも、英検2級程度かTOEICで500点程度の実力がなければ、英語アレルギーがひどく、精神的に英語を受け付けないのです。また、仮に後で英語に移植するように作ったとしても、この業界は変遷が早いので、その頃には既にそのソフトは必要とされていなかったり、動作するOSがなくなっていたりして手遅れなことも多いのです。



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